银河铁道TIMES

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【インド/バラナシ】バラナシの歩き方

「なんでこわい? ボラれた?」
川沿いを歩いていて、「コンニチハ」と話しかけてくる胡散臭い男を無視すると日本語でそんな言葉をかけてくる。負け惜しみだ。バラナシには「コンニチハ」と言ってくるインド人が多かった。ここには日本人旅行者が多く、そして、騙される日本人旅行者が多いのだろう。世界各地のガイドブックを読むとだいたいどの国のガイドブックにも「日本人旅行者を狙ったスリ・ひったくりが発生しています」と書かれているが、実際にはそんなことはない。いまや日本人旅行者は母数として少なく、経済力も無い。ボるメリットがないし、狙うメリットがない。バブル期のエッセイなんかを読むと、日本人がアメリカ人に「日本は物価高いでしょう?」と問いかけていたり逆に「日本は金はあるけど文化がない」と揶揄されていたりするシーンがあって、そんな時代があったのかと、ぼくは色々と考え込まざるを得なかった。
だが、バラナシに限れば日本人旅行者が多かった。実際に見かけたし、先述の「コンニチハ」も含めて、日本人の足跡のようなものがこの街には至る所に残っていた。有名な日本人宿があり、日本人向けのヨガ教室のポスターがあり、名物となっている日本人食堂があった。ギタリストの弓木英梨乃は、自身のYouTubeチャンネルで「インドに一人旅をしてバラナシでシタールを習った」と言っていたが、それもむべなるかな。
次の目的地として、北にあるネパールの首都カトマンズをイメージしていたぼくは、旅行代理店に入ってカトマンズまでのバスの料金と時刻、予約の埋まり具合を確かめたが、そのときもぼくの後ろから、ソバージュだかドレッドをうんこみたいに束ねたいかにも日本人英語を話す日本人男性がぼくと似たようなことを尋ねにやってきてそそくさと出ていった。中に南京虫でも住んでいそうなあの髪型、旅するのに絶対向いていないと思うんだけど。

バラナシはとにかく歩きづらくておおいに困った。道が狭く、牛の糞だらけで、人、リキシャ、車も多い。バラナシを歩いて改めて理解したことは、ぼくにとって旅とは歩くことだということだ。とにかく歩く。ズンズンとスピーディーに歩く。街の繁華街から住宅街を突っ切って別の繁華街まで歩く。そしてたどり着いたところにある適当なカフェ・食堂・バーに入る。どこの街に行ってもそれを繰り返している。ぼくは歩くのが速ければ速いほど疲れにくいたちなので、バラナシのように常に一メートル先を注意しておかなければならない土地では思ったようにスピードが出せなく、すぐイライラとして、疲れてしまった。
カフェや食事にもわりに困った。コルカタのように欲しいところでチャイ屋が湧いて出てきたように立っていることもなく、その後に訪れたデリーのように安いカレー屋がそれぞれの特色を持っていたるところに出店していることもない。「ここがあればしばらくなにも考えずに過ごせるなあ」という安くて素朴な食事処があると旅はぐんと楽しくなるのだが、それがバラナシではなかなか見つからなかった。全く訳のわからない菓子とか揚げ物を売っている店は多かったが、その少し上のランクがない。観光客向けの割高なレストランはあるが、その少し下のランクがない。
酒もなくて困った。ヒンドゥー教では酒はあまり推奨されないらしく、特にバラナシはガンジスの聖地とあってなお厳しかった。実はコルカタでも酒には困っており、かろうじて見つけた、ちょっとぼくにはムーディーすぎるバーというかクラブ(ピタッとしたドレスのネーチャンを金持ちインド紳士が連れているカンジ)に駆け込んでビールを飲んだのだが、高い割にそれほどうまくなかった。バラナシでは川沿いが特にアルコール厳禁らしく、ググると川から離れた場所にいくつか飲めるところが見つかった。わざわざそこに出向くと、そこは地下の、まるで牢獄のように薄暗く狭い一部屋で、全員が男で、全員がタバコを吸っていて、ビールは強くマズかった。金を払って瓶を受け取って田舎の駅の待合所のような形のその部屋の壁際に並んでいる長椅子のうち好きな場所を陣取って飲む方式だが、さすがにまったく寛げない。条件の悪い喫煙所か、条件の良い牢獄としか思えないそこを訪れたのは昼過ぎだったのだが、飲み始めてしばらくして売主がぼくに声をかけてきて両腕を手首のところでくっつける動作をして深刻な顔で首を出口の方に向けた。「捕まるからそろそろ出て行け」ジェスチャーが意味するところはそれ以外になかった。キングフィッシャー・ストロングというインド産のビールは、どんなビールでもだいたい美味しく飲めるぼくの口にも合わなかったので、彼の案内もしくは警告に従って素直にぼくは外に出た。

バラナシでは宿を二回変えて、合計三つの宿に二泊ずつ滞在した。何日滞在するか事前に決めておらず、そういうときは往々にしてまずは二泊分予約するのでこんな形になった。まだこの街に居続けるつもりがあり尚且つ泊まっていた宿が良かったら延泊するが、気分を変えたいときは宿を変える。居場所が定まらなかったが、もうこれでいいだろうとも思わなかったバラナシでは後者だった。最初の二つは中心部のドミトリーで三つ目は少し外れたところにあるシングルルームをとった。三つ目のホステルでは部屋の冷蔵庫にビールが冷えており、家族経営で、リビングには数年前の『地球の歩き方インド編』があった。普段は読まないこのシリーズだが、このときは面白く読めて参考になった。疲れていたのかもしれない。
三つ目のホステルは観光地からは少し離れており、やっとこさ近くに贔屓にできる軽食の屋台を見つけた。十代にしか見えない青年が大きな鍋でつくってくれるハッカヌードル60ルピー。すぐ隣のチャイ屋におっさんたちが群がっており、ぼくもそこに入っていく。こういう感じでやりたかったんだよ。寝床を確保しお腹を膨らませ、夜の川沿いの散歩に出かけた。静かに点滅するガート(川岸)と人々、気持ち良い風が吹いている。

(たいchillout)

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