【ネパール/ポカラ】なんといってもお気に入り

そして湖には静寂がある

ポカラはこの旅を通してのぼくのお気に入りだと言える美しい街だ。ひとことで表すと湖と山の町。自然というか地形というか、その全体。いわゆる「ランドスケープ」に魅力がある。ただ自然が豊富というのではない。佇まいがいいのだ。多くの人におすすめしたい。
多少はツーリスティックではある。なにせこれだけ自然が魅力的なので観光開発はされている。だが派手さはない。八割のバックパッカーにとって許容範囲内だろう。中心部(つまりレイクサイド)のカフェや食事処は基本的に外国人観光客向けに営業されているが、味や価格帯はわりに安定している。徒歩で町を観て廻ることができる。長旅の途上にあるバックパッカーにはあらゆる点が丁度いいと感じられる町だと思う。静かで美しく、快適さもあり、旅の疲れをここでしばらく癒すのもありかなとつゆほども思わない旅人がいたとしたら、それは極めて少数派の旅人ではないだろうか。

到着したときにバスステーションから見えた真っ白い山の頂は町の中心からも見えた。ある朝その山と湖の見えるカフェのオープンテラス席でコーヒーを飲んでいると、同じテラス席になにもオーダーせずに座っている少年と少女がいた。カフェの身内だろうかと思っていると通りの向こうからスクールバスが現れカフェの前で停車し、二人はそのバスへと駆け出していった。そのあとぼくは広くほとんどだれもいない公園に行って和歌山で買ったハーモニカを吹いた。

ぼくは湖沿いを何度も往復した。朝は幻想的に霧がかかって、昼は空が突き抜け見晴らしが良くなり、しかし夕方の空気の透明感こそ格別だった。童謡とフォークソングの中間のようなさみしげな曲を弾き語るストリートミュージシャンがいて、近づくとなんと彼は日本語で歌っていた。各地の海と川を見てきたが湖というのもいいものだとぼくは思った。川には人の生活がある。海には永遠と繋がっているような開放感と、永遠から帰ってこれなくなりそうな恐ろしさが同時につきまとう。そして湖には静寂がある。

 

バルディヤ行きのチケットを求めて

ホステルにあった英語のガイドブックを読んで次の行き先をバルディヤに決める。ポカラから西、町らしい町がなさそうであり、三つの国境に関する情報も少なかった。最終的にポカラのトラベルエージェンシーの女性から聞き出した情報とネットでのリサーチも加味しての判断だったが不安は残った。インドに入った後も未定だった。首都のデリーが視野に入るが、街が存在するなら刻んでいく方が快適だし、面白味もある。とはいえ交通網の問題もある。鉄道旅をしてみたいが例によってインドの鉄道予約は難関。バスでも考慮すべきことは多い。たとえば無計画に小さい街に入ってしまい長距離バスが立ち寄らないことを後で知ったりすると、大きな街に引き返す必要が生じたり、ひどく割高でイレギュラーな乗り継ぎを強いられることになる。そしてぼくはデリーの前に、リシケシュという、ビートルズが長期滞在したことで知られる街にも、もし可能であれば、行ければと考えていた。リシケシュはガンジスの上流で北にある。また三週間後にインド南部のコチからモルディブに飛ぶ航空券を持っていたため、コチに辿り着けないようじゃ大いに困るわけで、なによりそれまでの限られた時間、納得のいく過ごし方をしたかった。

トラベルエージェンシーの女性はバルディヤ行きのバスは当日券で乗れると言ったが、ぼくはこのときは事前にチケットを入手しておきたいと考え、カトマンズから到着したときのバスステーションまで歩いて行った。しかしバルディヤ行きのバスが発着するのは別のバスステーションだった。それを教えてくれたチケット窓口の女性が別のバスステーションに電話をしてくれ、代わりにここで買ってあげることもできると言ったが、ぼくはそれを断り別のバスステーションまで歩くことにした。いずれにせよ事前にそのバスステーションを見ておきたかったし、ここで買ってもらってもそれが正規の料金であるのか判別がつかないからだ。
そしてその別のバスステーションに来たのだが、結論から言うとこの日はチケットが買えなかった。担当者曰く「fixed bus number がまだない」。どのバスがバルディヤに行くのかまだ決まっていないので予約ができない。そういう理屈だ。明日になったらfixed bus numberがある、だから明日来てくれと言われた。ぼくは明後日の夜行バスを予約するつもりだった。余談だが、バスステーションはこちらの方が規模が大きく、地元の人ばかりで活気があった。ここにはツーリスティックな香りはない。レイクサイドのチルアウトムードもない。チケットカウンターも男たちで混雑しており、カウンターの男とはまともな英会話が成立しなかったので、久々に周囲の人々を巻き込んでてんやわんやのコミュニケーション(意志伝達)大会となった。

歩き通しの一日だったがここからさらに歩いてホステルまで帰り、夜はツナサンドイッチとビールで締めた。

(たいchillout)

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