【スリランカ/コロンボ】スリランカの夜は暑い

大変なこと

スリランカコロンボのバンダラナイケ国際空港に深夜に到着した。この夜の宿は予約しておらず、空港内の適当な場所で朝を待つつもりだった。横になれる場所があれば助かる。が、あるかはわからない。結果、それは無かった。最初、空港内のカフェで椅子に乗せたバックパックに抱きつくようにして座ったまま眠ろうとし、それでは眠れなかったので、到着ロビーのベンチに座り荷物カートに両足を乗せて眠ろうとした。バンダラナイケ国際空港はそれほど大きくはない。インドで余らせたインディア・ルピーをスリランカ・ルピーへと両替したかったが、受け付けてもらえなかった。隣国であるにもかかわらず両替場所がないのは時々ある。キルギス・ソムはウズベキスタンで両替できない。ラオスのキープもタイで両替できなかったと記憶している。そうして余らせたコインは積み重なってくるとばかにならない重量となる。ぼくはそれらを国別にジップロックに小分けして仕舞い、時々、旅路の交差した旅人仲間にプレゼントしたりした。
それにしても。とぼくは思う。ついさっきまでモルディブにいて、ビジネスクラスに乗ってスリランカに来たわけだ。そんな自分が一泊千円ちょっとの宿泊費とタクシー代を浮かせたくて空港で朝を待っている。貴重品を身につけ、身についているかのチェックを習慣的に繰り返し、貴重品以外の荷物からも注意を逸らさない。その状態で同時に寝ようとしている。大変なことだ。

 

感覚が全開

これから先のアラブ世界に立ち入るための勉強として読んでいた『イスラーム主義──もう一つの近代を構想する』を読了し、夜が明けたところでAirtelという携帯会社のSIMカードを購入してコロンボ行きの空港バスに乗った。コロンボスリランカの首都ではないが、実質的に首都として機能している。滞在期間は決めていなかったが、暇になるまでコロンボに居ようと思った。インドの南に浮かぶ小さな島国の歴史ある都会に興味を持った。スリランカという国の滞在期間は十日だ(十日後のマスカット行きのチケットを持っている)。
空港バスとそのバスの走る道は整備されている。インドと同じく旧イギリス領であり、官公庁らしき重厚な建築には見応えがある。空港バスは街の中心の雑多な市場の近くに停車し、降りると南国の朝の熱気に包まれた。人々の人種的外見はやはりインド人に系統として似ているが、インド人ではなくスリランカ人なのだと思って見るとどこか違うような気がしなくもない。どこが違うのか、まだ言葉にできない。
ぼくはここから例によってホステルまで歩き、その途中でカフェや食堂でご飯を食べるだろう。新しい街に朝に到着すると半日かけてホステルまで行ける時間があるので気が楽だ。迷っても別にいいし、いろんなところを冷やかしながら歩ける。ルートを決めて観光するときよりも到着初日に宿を目指して歩くときの方がより多くのインプットがあると個人的には思う。その街での第一歩なのだから、本当の意味でなにもかもがはじめて見る景色で、興奮し、同時に警戒心も最高の状態にある。この頃になると夜行による睡眠不足のことは完全に忘れて、感覚が全開になっている。それは旅人が一番幸せなときだと思う。

 

スリランカの夜は暑い

その夜、ドミトリーが停電した。ドミトリーの停電はこれまでにもあったが、スリランカという土地は夜も蒸し暑く、狭いドミトリーには二段ベッドがきつきつで並んでおり身体の大きな男たちばかりが宿泊客だったので、エアコンが止まると本当に不快で絶対に寝られない状態になってしまった。停電していたのはぼくのドミトリーだけでなく、女性用のドミトリーやコモンルームもそうで、WiFiも扇風機もコンセントからの給電も全滅だった。何人かの西洋人の男女は、停電に腹をくくったのか、夜の外へとドアを開け放ったコモンルームに集まり、星明かりと遠くの街灯を頼りに談笑していたが、そこに入っていく気分でもなく、ぼくは外階段を登って四階建ての屋上に出た。信じられないことに屋上も暑かった。文句なしの無風状態だ。復旧の目処ははっきりしなく、ホステルのスタッフが復旧に奔走しているのかどうかも不透明で、適当な感じがして腹立たしくなる。そういえばタイのチェンマイで停電があったときはもっと涼しかったのか、それほど腹が立たなかった。一方、今日の暑さははなから寝ることを諦めるレベルのものだった。モルディブは本当に快適だった。
格安旅行とバカンスの切り替えを自分は簡単にできると思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。理不尽だ、という思いがどこからともなく湧いてくる。そういうとき人間は、なにがどう理不尽なのかなんてことを考えることはできない。ただ単に自分が今の状況を受け入れることができなくて、どうしようもなく不服に思っている。説明をつけようとすると必ず誰か敵を設定してしまう心理状態。敵なんていない。ぼくはただ単に、寝不足で、スリランカの夜は暑い。そしてモルディブの快適さを引きずらない強さがこの心に無かっただけなのだ。

(たいchillout)

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