【アルバニア/ティラーナ】透明

小さな国の、小さな首都

朝方に到着したバスステーションのカフェでコーヒーを飲み、気力も湧いてきたので今度は隣の店に移動してしっかりめの朝食をとった。オムレツ、ソーセージ、チーズ、バスケットに入ったパンが二枚。店の壁にかけられた絵には雪山と麓の小屋が描かれている。

アルバニアのティラーナ。小さな国の、小さな首都だ。「レク」という通貨を持つこの国では基本的にユーロが使えるが、シェンゲン協定には非加盟であるため出入国の手続きがあった。そしてシェンゲン圏の滞在は合計で三ヶ月までというルールも、アルバニアには適用されない。長くヨーロッパを旅するためにぼくは、ときどきこうやってシェンゲン圏の外に出るということを繰り返した。

ティラーナはとても居心地のいい街だった。アフリカ系やアラブ系の移民や出稼ぎ労働者は見かけない。そもそもこの国で働いても出稼ぎにならないからかもしれない。そのくらい物価は安く、さして有力な産業も見当たらなそうな、コンパクトな街だった。だが、たとえばラオスのヴァンヴィエンみたいにコンパクトなのかというとそれは少し違う。小さなカフェ、小さなバー、小さなベーカリー、原色のカラフルな路線バス……どこからどのように風景を切り抜いても自然な佇まいと気負いのない歴史性を感じさせるのだ。可愛い街、という表現もしっくりくる。政治的には波乱の記憶が刻まれている土地ではあったが、ぼくが訪れたときはのどかで、「豊か」に見えた。そこかしこにあるベンチに並んで腰かけている老人たちはとても仲良しに見える。若い女性には「むすめさん」と呼びたくなるようなどこか淡い佇まいがある。タイルの中央広場は雨あがりにきらめく。優しい稜線の山々にかかる午前の白い霧。バルカン半島の街にだけ見られた──西ヨーロッパとはなにか異なる──独特な透明感は、ティラーナにとても象徴的だった。

到着した昼に天気は雨に変わったが、気がほくほくしていたぼくはちょっとしたテント風の小さなバルに入りさっそく一杯やりはじめた。グラスの赤ワインとスモークソーセージ(ザワークラウトのような位置付けにある香ばしいオニオンつき)。これでなんと2.7ユーロ。さらに大きく切った焼きチーズをオーダーする。ワインは甘みがあり、この価格にしては信じられないほど美味しい。
夜行バス明けだったので午後も早い時間にはいそいそとホステルに帰ってきて、静かで薄暗いドミトリーでどっかりと眠った。夕方に起きて動き出したときもやはり雨が降り続いていたが、案の定というか、夜も似たような店を探し歩いて、ポークシシケバブとビレッジサラダ、ドラフトビールという内容で初日をしめくくることになった。反省はしていない。

 

2019年5月 たいchillout