【アラブ首長国連邦/アブダビ】白いモスクと緑の海

白いモスクと緑の海

アブダビの朝をむかえた。部屋に備えつけられたポットで沸かしたお湯と、携帯していたティーバッグを使って紅茶を飲み、洗濯をして、通路に置かれた物干し台に、許可をとって洗濯物を干した。
アブダビにはシェイク・ザイード・グランド・モスクという白く美しいモスクがあるらしい。明日、エジプトのカイロ行きの便に乗るため、アビダビ観光ができるのは今日一日だけである。ぼくは、まずはそのモスクに行くことに決め、その後はノープランということにして、昨日の夜に準備した青リンゴとフィナンシェの朝食を済ませてから街にでた。
スターバックスでコーヒーを飲み、バスターミナルに出かけてバスカードを買う。モスク行きのバスに乗ると、人は少なかったが、揃って派手なワンピースを着た日本人女性二人組が乗っており面食らった。モスクを見終えて街に帰ってくると、まだ明るかったが宿に戻って洗濯物の乾き具合を確かめた。ぼくの部屋の前、洗濯物を干していた通路に二人のフィリピン人女性がいた。一人は椅子に座って、もう一人がその後ろに立ってハサミを持っている。散髪をしているのである。ハサミを持っている方の女性が「ハァ〜イ」としなをつくって言い、ぼくにお前はレディーボーイなのかと聞いてきた。
「レディーボーイ?」
「そう、レディーボーイ」
「なに、レディーボーイって?」
女性たちはくすくす笑う。
「ゲイのことよ」
「ノー」と言って部屋に戻ろうとすると、
「あなたも髪切ってあげる?」
ぼくはそろそろ髪を切りたいと思っていた。実はこのとき少し真剣に切ってもらおうかと悩んだのだが、つい断ってしまった。
少し身体を休めてから、ビーチへ。街の中心部から歩いてゆけた。広い砂浜に人は少ない。ぼくはサンダルを脱いで素足でビーチを歩いた。細かい砂が滑らかで、貝殻やゴミのようなものもほとんどない。磯の匂いなどは少しもない。どこか人工的で、そのせいで幻想的でもあった。アブダビの陽は長いが、もうサンセットがはじまっている。手をつないで砂の上を歩く男ふたりが目の前を通り過ぎた。とにかく風が気持ちいい。空気が乾燥しているから、陽が翳るとすぐに汗が引くのだろう。三日月が出た。暑い一日で温められた表面の砂を踏み抜いて、埋まっていた冷たい砂に足裏が触れる。それを一歩ずつ繰り返す。海の色は明るく、色彩にグリーンが混じっている。ここは砂漠の果ての海なのである。
翌朝、スターバックスで寛いでいると、予定していたエアポートバスの時間に遅れそうになり走った。そのバスは目の前まできたところで逃してしまったが、次の便でなんとか空港のチェックインには間に合った。
空港では、ギリギリアウトの重さのバックパックを節約のため機内持ち込みにしたく、試行錯誤した。チェックインカウンターと手荷物検査はしれっとクリアしたが、搭乗ゲートでついに「こんな重いバッグは機内に持ち込めない」と言われた。預け荷物のチェックインはもう締め切っているはずだったが、どうやら追加料金なしでそこに紛れ込ませてくれたようだ。
離陸。ぼくはついにアラビア半島を立った。次はエジプトだ。この旅で唯一のアフリカ大陸の国である。ピラミッドをみるぞ。

(たいchillout)