【スリランカ→オマーン】マスカットへ

貰ってくれた方がありがたい

オマーン・エアに乗るため、前日にスマホでWEBチェックインをした。こういうことも繰り返せば慣れてくる。ホステルの予約も、バックパッカーならアプリ一発で終了だが、旅慣れる前のぼくは、予約確認表なるものをしっかりと印刷しクリアファイルなどに入れて旅行した。初めての海外である香港でもそうやって旅をした。大規模な旅行は年に一回あるかないか、という日本人は多いと思う。そういう人たちの多くは、かつてのぼくと同じく航空券とホテルそれぞれの予約確認表をプリントしてクリアファイルにしまっているだろう。ホッチキスに止めている人もいるかもしれない。

マスカット行きの便は早朝だったので、最終日は空港近くのホステルに移った。コロンボ・フォートから空港行きのバスに乗ったのだが、空港からホステルまで徒歩で五十分かかったのには閉口した(迷ったのもあるが)。夕暮れの迫るなか、線路の上を歩いた。敗因は、地図だけ見て直線距離で移動時間を測ってしまったことにある。しかしこんなに遠いとは。これでは前乗りした意味がまったくない。結局、翌朝は安全策と体力温存のためホステルから空港までトゥクトゥクをチャーターすることにした。追加出費となった上、近場に泊まって朝の睡眠時間を確保するという狙いはご破産となった。

静かなホステルで、周囲に飲食店もない。西日が部屋のどこかに差し込んだ広い共有のリビングルームで一人でカップラーメンを夕食とした。サキさんと前日に別れて久しぶりに孤独感があったが、ここでも日本人女性に出会った。
眼鏡の奥の目つきが鋭く、華奢で、ドミトリーでは背中を丸めて横になっていたが、起きた際に中国人かと予想して英語で出身を尋ねると、奇跡のような発音で「Japan」と言ったので驚いた。社交的でない感じはあり、見方によっては多少挙動不審なところがある。だがその目つきが語る通り意志が強く実行力の高い人間だと後からわかった。女性は春から夏の終わりまで上高地のリゾートで住み込みで働き、そこでまとまった金を貯めて、冬に海外を旅するという生活を毎年繰り返しているらしい。スリランカにもインドにも詳しかったが贔屓はポルトガルで、長く住んでいたこともある。生き方が一貫している。ハートの強さと、蓄積のある過去をひしひしと感じた。無駄な肉が生涯で一度もついたことのないような華奢な体つきをしており、そのせいで若者だと思ったが、話ぶりなどから年上だと判断した。ぼくはぼくの旅の話をした。
翌早朝、リビングで荷造りをしていると女性が起きてきた。起こしてしまったのかもしれない。大分早い時間だった。女性は挨拶だけするとキッチンに向かった。そして冷蔵庫からバナナを持ってきた。貰ってくれた方がありがたい、と言って、そのバナナをぼくに渡した。
連絡先はおろか、名前も知らない。そして「じゃ気をつけて」とだけ言ってドミトリーに戻っていった。

 

家並みはことごとく白く

オマーン・エアは清潔だし、ぼくとしては機内食のポイントも高い。旅好きには航空会社マニアも多いだろう。ぼくは陸路第一なのでその限りではないが、空の旅が好きな方にはオマーン・エアはおすすめできる。
やがてマスカットが見えてきた。家並みはことごとく白く、街が途切れ大地の盛り上がる箇所はすべて砂色。きれいだ。
こんなに人が少なくって大丈夫なのだろうか、という荷物検査を経て、あまりに清潔で洗練されゴージャスでもあるアライバルフロアに入場した。荷物検査やイミグレなど、出会ったオマーン人の空港職員には愛想の良い人も何を考えているのかわからない人もいた。ぼくはそれなりの緊張感を持ってこの空港を歩いた。初めてのアラビア圏だった。三フロアほど吹き抜けになっており、曲線が使われたベンチが配置され、そこにイスラムの白いローブを着た男たちが座り、人工なのかわからない椰子の木がSIMカードを販売する通信会社のカウンター前を彩る。フロアにはCaffee NEROというコーヒーショップがあり、このチェーンは今後ヨーロッパに至るまでほとんどどこにでもあった。Caffee NEROはオマーンに進出しているが日本には進出していない。有名な世界チェーンということになるが、日本人は日本に存在しない世界チェーンがあることを(言われればそりゃそうだろうと納得するとしても)日々の感覚として理解していないのではないだろうか。ぼくは理解していなかった。これからぼくはSIMカードを手に入れ、Airbnbのホストとなる男性に連絡する。空港バスで街中まで行き、そこに迎えにきてもらう時間を調整することになっている。マスカットは物価があまりにも高く、泊まれる宿がひとつもなかった。民泊、つまり人の家に泊めてもらうサービスであるAirbnbを利用するのはこのときが生まれて初めて。これもひとつのチャレンジだ、という心構えだった。
空港の外観も見てみようと恐る恐る出口に向かう。人は少ない。外も予想以上に美しかった。水場があり、ここも白を基調とした柱と磨かれた床が整然と配置される。その向こうに芝生と椰子の木が規則的に並び、青空にはかすかにぼやかしが入っているように見えるが、あれは、舞った砂漠の砂だろうか。適所に設置されたタッチ式のモニターパネルは未来的で、英語とアラビア語で、空港のサービスを案内している。

(たいchillout)

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