【インド/アムリトサルメール】コルカタ発バラナシ行

ホグワーツに行くとき

大混雑のハウラ・ジャンクション駅内の食堂でハッカ・ヌードルを立食いし、ミネラルウォーターを買い込んで、19時10分の「AMRITSAR MAIL(アムリトサルメール)」という名を持つ寝台列車に乗り込んだ。ここはコルカタ。目指すはバラナシ。途中幾つもの駅に停車し、バラナシから先もまだ線路は続いている。朝の9時過ぎに到着予定だ。列車の待ち時間、そこが目的のホームであることを確認するために、知的な印象のある男性を風貌から選んで声をかけた。どうやら男性は平時はポルトガルに住んでいるらしく、英語に堪能で、インドの列車での諸注意を教えてもらった。ケータイを充電しながら寝ているとまず盗まれるからやめとけとのこと。
寝場所はコンパートメントにはなっていなく寝台は通路に剥き出し。出発前も出発してからも絶え間なく人々が通路を行き交い(指定席を持たない人々がちゃっかり座れる場所を探しているようだった)、定期的にチャイ売りが「チャイ、チャイ、チャイー」と言ってやってくる。ぼくは三段ベッドの一番上。ハシゴはついてないので登るのも骨だ。天井が近く、寝台に「座る」ための高さはない。外国人枠はまとめられるのか、下段には西洋人のカップルがいる。だが視界の九割を埋めるのはインド人の男たちだ。彼らの旅の目的はぼくには不明瞭である。観光客には見えないので商売のための移動なのだろうか。AC3クラスなのでかろうじてブランケットがある(Sleeperクラスはそれもない)。せっかくのACチケットだが北部の一月なので今のところエアコンはOFFになっている。車内販売のチャイは作り置きなので街の露店より味は落ちるが、ぼくはこれから先のインド鉄道旅で何度もそのチャイのお世話になることになる。
寝台はぼくの身長には短く、膝を立てなければ横になれない。置き場もないバックパックをそのまま枕として使う。靴の置き場もないので(通路に置いておくと蹴っ飛ばされる)天井の扇風機に挟み込む。寝台がどことなく煤けているように見えたので、試しにティッシュを湿らせて軽く拭いてみると、もう一瞬にして真っ黒。せめて頭部の近辺だけでも綺麗にしようと試みたがきりがないので諦めた。気休めにウィンドブレーカーを羽織ってフードを被り、デイパックを腹に抱えて横になった。目隠しカーテンの類は一切なし。話し声もさることながら当然のことイビキも混じる。オジサンの寝息が充満する車内の空気を吸い込みたくない。ぼくは開かない窓から入ってくる冷たい隙間風に頭を近づけて、少しでもそれを安心材料にして眠りについた。
散々な気分だと思う?
ノー。ぼくはワクワクした。まるでホグワーツに行くときのハリーの気分。あるいはミネソタからニューヨークに出るときのディランの気分。iPhoneのメモにはそう残されている。

(たいchillout)

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